ほんの数年前まで持ち運び用のモバイルノートPCといえば、普通のノートPCより割高であることが当然だった。売れ筋のノートPCが10万円台前半であるなら、モバイルノートPCは10万円台後半、あるいはそれ以上であることもあった。それを大きく変えたのは、Netbookである。持ち運んで苦にならない大きさと重量のPCが、5万円以下で入手可能となったのだ。機能、性能ともに制約の厳しいNetbookではあるものの、一般のノートPCより安価にモバイルノートPCが提供されるようになったのはエポックメーキングな出来事に違いない。
確かに本格的にNetbookを使い始めると、その限界に直面することも少なくない。小型の画面は可搬性に寄与する一方で、作業効率の点では制約となる。性能もWebのブラウズやメールチェックなど基本的なアプリケーションには十分とはいえ、本格的な作業には力不足を感じる。Netbookの影響で、従来型モバイルノートPCにも低価格化の波が押し寄せてはいるものの、それでも10万円台の半ば前後で、Netbookとの価格差は大きい。
両者の隙間を埋めるものとして、最近、目立ち始めているのが超低電圧版の略称であるULVを冠した、ULVプロセッサ搭載の薄型ノートPCだ。ULVプロセッサは、モバイルPC向けに使われるCore系プロセッサの中で最も消費電力が小さい。Netbookに使われるAtomプロセッサが登場する前は、高価な可搬型モバイルノートPCにもっぱら使われてきた。
これまでは高価だったULVプロセッサを、Netbookが示した大きな潜在市場を踏まえて安価に提供することにしたのが、この新しい薄型ノートPCのミソだ。従来型のモバイルノートPCが主に企業向けだったのに対し、Netbookが切り開いたコンシューマ市場向けに薄型のノートPCを提供しようというわけだ。このことから、このプラットフォームはコンシューマULV(CULV)とも呼ばれる。
C U L Vの特徴は、従来型モバイルノートP Cと、Netbookの中間を狙っていることだ。6万円から10万円前後という価格レンジもそうなら、狙っている性能も当てはまる。シングルコアとデュアルコアの両方を揃えたプロセッサのラインアップ、Netbookに使われている945チップセットより格段に新しい40番台のチップセットを揃え、バッテリ駆動時間にも大差ない。Netbookでは難しいHD動画の再生も可能であり、ドライブさえ用意すればBlu-rayの再生さえできる。
つい最近投入されたULV版のデュアルコアCeleronプロセッサ(SU2300)は、これまで同ブランドのプロセッサでは利用できなかったSpeedStep技術や仮想化技術(VT)さえサポートした。L2キャッシュ容量が小さいことを除くと、Core 2 Duoとほとんど変わらない。Intelがいかにこのプラットフォームに本気であるかが、うかがえようというものだ。
だが、今のところCULVプラットフォームを採用した薄型ノートPCの売れ行きは、それほど芳しいものではない。その理由のいくらかは、CULVという呪文のようなネーミングにもあるのだろう。言い換えればNetbookというネーミングが極めて秀逸であったことの裏返しだ。
元々CULVは、Intelがこのプラットフォームを内部で検討していた時のコードネームで、この名称を外部に対して使う予定はなかったという。それがプラットフォームのマーケティングプランができる前に外部に漏れてしまい、ズルズルと使うことになってしまったらしい。コンシューマ相手のビジネスでは、製品と価格が適切であるだけでなく、ネーミングも含めたマーケティングの重要性を改めて感じさせられるエピソードだ。