日本IBM、日本オラクルなど数多くの外資系IT企業で伝説のリーダーとして活躍し、スティーブ・ジョブス氏の指名でアップル・ジャパンの前代表取締役社長も務めた山元賢治さん。リーダーとして成功を収めるためには、「自分はどうなりたいのか」「何をしたいのか」というマイコミットメントを明確にすることが大切だと語る。「未来の坂本龍馬」の育成を目指して私塾も経営する山元さんに、リーダーに欠かせない条件や、それを手に入れるための方法について聞いた。
BP:山元さんは著書『選ばれ続けるリーダーの条件』の中で、上司や部下、会社などから「選ばれ続ける」ことが、リーダーとして成長していくために不可欠な要素だと語っておられますね。
山元賢治氏(以下、山元氏):リーダーになるための条件はいくつもありますが、「選ばれる」というのは、最も大切な条件のひとつだと思います。なぜなら、会社や上司から「彼に仕事を任せたい」、部下たちから「この人の下で働きたい」と思ってもらえるような人にこそ、活躍の場が与えられるからです。
人生は「選ばれる」ことの連続です。大学受験、就職活動は言うまでもなく、会社に入ってからも、「誰にこのプロジェクトを任せるのか」「誰をこの新規部門のトップに据えるのか」「誰を次の役員にするのか」という選択の中で、選ばれる機会をより多く勝ち取ることが自己のキャリアアップにつながります。
ですから、リーダーとなるためには、「何が何でも選ばれる人間になる」という気概を持たなければなりませんし、リーダーたるべく自分を鍛え上げ、コミュニケーション力を発揮して組織を引っ張っていく覚悟も必要です。
わたしは2009年9月にアップル・ジャパンの代表取締役社長を辞めるまで、三十数年にわたって米国系のIT企業を渡り歩き、スティーブ・ジョブスをはじめ多くのカリスマ的なリーダーたちと直接触れる中で、「リーダーたる者はどのような覚悟を持つべきなのか?」ということを考え、108の項目にまとめました。それをもとに『覚悟108』という冊子を作り、セミナーや講演、わたしが開校した経営者やビジネスマン向けの私塾「山元塾」のテキストとして使用しています。
その『覚悟108』の中から、これから就職する学生や、組織の中で成長しようと頑張っている若手ビジネスマン向けの内容をピックアップして、わかりやすくまとめたのが『選ばれ続けるリーダーの条件』という本なのです。
BP:「選ばれる」人間になるために必要なこととは何でしょうか?
山元氏:会社や上司は、明確な目標や夢を掲げ、それを何とか実現しようと頑張っている人に「仕事を任せたい」と思うものです。部下だって、そういう人なら「一緒に頑張って夢を実現したい」と言ってくれるはずです。
ですから、まずは「自分がどうなりたいのか」「何をしたいのか」というマイコミットメントを明確にすることが大切です。「なりたいこと」「やりたいこと」をはっきりさせて、それをいつまでに、どのくらい実現するのかということを数値目標で設定するのです。
ぼんやりとした目標や夢を思い描くだけでは、いつまで経ってもゴールにたどり着くことはできません。明確な目標を掲げて、それを着実にクリアしていくことが大切です。
日本人は、行動をするときに得てして「How」(やり方)から物事を考えがちですが、「どうなりたい」「何をやりたい」が明確になっていないのに、やり方を先に決めるというのは本末転倒です。具体的な数値目標がなければ、どこまで頑張ればいいのかが曖昧になってしまいますし、何が何でも達成してやろうという意欲も湧きません。
BP:いかにも、多くの日本人が陥りそうな失敗ですね。
山元氏:逆に「なりたいこと」「やりたいこと」がはっきりしていれば、目標を達成するために「何をあきらめなければいけないのか」ということがはっきりします。目標に向かって限りある時間と労力を集中できるわけです。
地球に生きている限り、与えられた時間の長さと重力だけは、人間の力ではどうにも変えようがありません。
限られた時間をなるべく有効に使って、自分の目標を確実に達成できるように努力すべきでしょうね。
「人の上に立ちたい」「ほかの人よりもお金持ちになりたい」と真剣に思うのなら、仕事が終わっても酒を飲んで遊んでいる暇などないはずです。
世界では、会社の中で社長がいちばん勉強をしていますし、わたしもアップル・ジャパンの代表取締役社長を務めていたときは、社員の誰よりも早く、朝の5時すぎに出社する生活を5年半以上にわたって続けてきました。
それほど覚悟を決めて勉強をしなければ、リーダーとして組織を引っ張っていくことはできませんし、時代の変化に対応しながら組織や人を成長させていくことは不可能です。
BP:個人や企業もそうですが、日本という国自体が世界のめまぐるしい変化に対応できていないように感じるのも、国として「こうなりたい」という明確なビジョンが欠落しているからではないでしょうか?
山元氏:わたしは1980年代に日本IBMに入社したのですが、当時の米国では、日本製の自動車や家電の品質が非常に高く評価されており、日本人というだけで尊敬されたものでした。
たとえば、IBMの米国出張の際に街中を歩いていると「It’s a SONY」(注・ソニーの世界的なサウンドロゴ)と声を掛けられ、会議や打ち合わせでは「日本企業の品質管理の秘密を教えてほしい」と言われたものです。
しかし、1990年代に入って米国でソフトウェア産業が急速に発展すると、ハードウェアの品質だけでは勝負できない時代が到来し、そうこうしているうちに韓国や台湾などのメーカーが安くて品質も十分なハードウェアを送り出すようになってきました。
日本の製品は、品質は高いけれど値段も高い。しかも、注文への対応に時間が掛かるということで、どんどん競争力を失っていったのです。
それから長い年月が経っていますが、いまだに品質を超える日本の新たな強みというものは見つかっていません。
これはひとえに日本という国、そして日本企業が「こうなりたい」という明確なビジョンを持っていないからだと思います。
日本の家電メーカーなどの依頼を受けてセミナーや講演会を行う機会も多いのですが、そうした場では、参加する若いリーダーや技術者たちに「ぜひ、あなたたちが次の日本の強みを見つけ出して、それを広めていってほしい」と語りかけています。
BP:山元さんは、理想のリーダー像として「未来の坂本龍馬」となれるような人材を挙げておられますね。
山元氏:セミナーや講演会でつねに提唱していますし、わたしが運営する「山元塾」では、実際に「未来の坂本龍馬」となりうる人材の育成にも取り組んでいます。おかげさまでセミナーや講演会に参加してくださった方はこの5年余りで7万人以上、「山元塾」の卒業生は1000人以上になりました。
ご存じのように、坂本龍馬は海外の動きを敏感にとらえ、「日本はこのままではいけない」と変化を求めて、自らが動くことで実際に変化をもたらした明治維新の事実上の立役者です。
同じように、いまの日本も、めまぐるしく変化する世界の動きに対応しきれなく
なっている部分が相当あります。
まずは世界の考え方やビジネスの仕方を積極的に受け入れ、少なくとも同じ土俵
に立って戦える環境を整えること。そのうえで、自らの強みというものを見つけ出し、有利に戦っていくことを考えるべきです。
「未来の坂本龍馬」とは、そのように世界と渡り合い、勝ち抜くことによって、日本の新しい価値を生み出す力を持った人材だと言えます。
BP:世界と渡り合える人材を育成するため、山元さんはビジネス英語教育にも力を入れているそうですね。
山元氏:「山元塾」のプログラムの一環として、世界に通用する本物の英語を学べる英語塾を開設しました。
残念ながら、日本人が学校で学んだ教科書通りの英語や、単語を並べただけのブロークンイングリッシュでは、海外のビジネス相手と対等に会話をすることはできません。
また、日本語では当たり前の表現をそのまま英語に置き換えても、受け取る側にとっては不自然な言葉になってしまいます。ですから、英語によるビジネス慣用句を徹底的に頭に叩き込んでもらうとともに、頭の中でも英語で物事を考える習慣を付けさせる訓練をしています。
この訓練をすると、英語の質問に対して、反射的に自然なビジネス慣用句が出てくるようになります。会話がよりスムーズになるのでコミュニケーション力が高まりますし、何より反射的に物事に対応する力が身に着くので、瞬時の状況判断や決断ができるようになります。
そうした「瞬断」力も、リーダーにとって必要な力のひとつです。
BP:大塚商会でも社員向けのセミナーを行われたそうですが、社員の印象はいかがでしたか?
山元氏:営業社員の方向けにセミナーを行わせていただきました。これまで、どちらかと言えば「日本のSIerは元気のない人が多い」という印象を持っていたのですが、大塚商会の方々はまったく逆でしたね。非常に明るくて元気な方が多いように感じました。
また、プレゼン能力が非常に高く、自分の意見をしっかり言える方がそろっている印象も受けました。
おそらく、自社が提供する製品やサービスのよさをきちんと伝える能力を持っている方が多いのだろうと思います。これは非常に素晴らしいことです。
余談ですが、日本のビジネスには大塚商会さんのようにITのあらゆる製品やソリューションをワンストップで提案できる総合ITベンダの存在が欠かせないと思います。
欧米では、企業ごとにCIO(最高情報責任者)がいて、高度な専門知識や経験をもとに自社に最適なシステム、ソリューション、通信インフラを導入しているわけですが、CIOを登用している会社が少なく、現場のITに関する知識も欧米に比べると少ない日本企業にとっては、大塚商会さんのように何でも提案してもらえる企業の存在が非常にありがたいのです。
ちょうど、さまざまなアプリやソフトを動かしてくれるOSのような存在だと思います。そう言えば、大塚商会さんのイニシャルも「OS」ですよね(笑)。偶然とは言えない何かを象徴しているのではないでしょうか?
BP:最後に本誌読者の方々への応援メッセージをお願います。
山元氏:わたしに限らず、世界へ何度も行き来している人にとって、「日本ほど素晴らしい国はない」というのが共通の感想だと思います。
日本のおいしい食事や、行き届いた医療、規則正しく正確な交通インフラなどは、世界に誇れるものです。
そうした素晴らしい部分に誇りを持ち、強みにしつつも、一方でめまぐるしく変化する世界の動きをしっかりと見据えながら、新しい時代を生き抜いていける力を身に着けてほしいですね。
大切なのは、世の中の変化に合わせて「自分はどう変わっていくべきなのか?」をつねに問い続け、行動することだと思います。
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