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にっぽんの元気人
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「怒る」ことに我慢は禁物ただし「後悔しない怒り方」が大切
感情に任せてついカッとなり、上司や部下、家族との関係が気まずくなってしまった経験は、誰でも一度や二度はあるはず。「怒り」という抑え難い感情とどう付き合うべきか? 方策の一つとして注目されているのが、米国生まれのアンガーマネジメントだ。『アンガーマネジメント 1 分で解決! 怒らない伝え方』(かんき出版)の著者であり、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事も務める戸田 久実氏に、「怒り」と上手に付き合うためのコツについて聞いた。

「パワハラ問題」によって注目度が高まる
BP:まずは、「アンガーマネジメント」とはどのようなものかということについて教えてください。

戸田 久実氏(以下、戸田氏):
「あのとき怒っておけばよかった」とか「あんな怒り方をしなければよかった」という後悔をしないように、「怒り」という感情とうまく付き合えるようになることを目指す心理トレーニングです。
 よく「怒らない人間になるためのトレーニング」だと勘違いされるのですが、そうではありません。怒りは、人間にとって自然な感情ですので、トレーニングを指導する際に「怒ってはいけない」ということは決して言いません。「怒り」という感情は持っていいし、必要であれば怒りを表現してもいいのです。ただし「後悔しない表現の仕方や伝え方ができるようになりましょう」ということを伝えています。
 企業への研修では、「人はなぜ怒るのか?」といった知識や情報を得るだけではなく、マネジメントを実践するための心理トレーニングに取り組んでいただきます。ある程度の訓練を積むことによって、怒りという感情と上手に付き合えるようになるのです。

BP:もともと米国で1970年代に開発された心理トレーニングだそうですね。それが約50年たって、いま日本で注目されるようになったのには、どのような背景があるのでしょうか?

戸田氏:
日本で初めてアンガーマネジメントを紹介したのは、現在、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の代表理事を務める安藤 俊介で、2008年のことです。同協会は2011年6月に設立され、日本におけるアンガーマネジメントの普及活動を進めています。私も同協会の理事の一人です。
 なぜここ数年、アンガーマネジメントが日本で注目されるようになったのかというと、日本の企業や家庭、より広く言えば社会全般における「怒り」との向き合い方に大きな変化が表れているからだと思います。
 代表的な例が「パワハラ問題」です。当協会が設立された2011年ごろは、企業がコンプライアンス強化の一環として、パワーハラスメント(職権を利用した嫌がらせ)対策に力を入れ始めようとしていた時期でした。
 パワハラ問題を起こさないためには部下とどのように接すればよいのか、叱る必要があるのなら、どのように叱れば問題にならないのかといったことについて、多くの企業の管理職の方々が非常に悩んでいました。
 実際に企業の依頼を受けてトレーニングを行ってみると、初めて部下を持つ30代の若手リーダーだけでなく、40〜50代のベテラン管理職の方々の中にも「部下を叱りたいけど叱れない」「どうやって叱ったらよいのかわからない」という悩みを抱えている方が大勢いらっしゃることがよくわかりました。
 特に50代以上の方の場合、上司から怒鳴られながら仕事をするのが当たり前という経験をしているので、怒りをストレートにぶつけることなく部下を指導するという経験が乏しく、学ぶべきロールモデルも存在しないので、「どうすればよいのか?」と途方に暮れる方も多いようですね。
 また、最近ではダイバーシティ(多様性)の推進と共に、同じ会社で働く人の価値観もどんどん多様化しています。「これ、普通だったらこうするよね」という「普通」の感覚が、人それぞれ異なってきているわけです。
 実は、そうした人それぞれの価値観の相違が「怒り」をもたらす大きな原因になっているのです。

自分の価値観と相手の価値観を理解する
BP:著書を拝見しましたが、「怒り」は、「こうあるべき」だという理想が満たされなかったときに起きる感情だと書かれていたことに、思わず納得しました。

戸田氏:
全ての人は、世の中や物事は「こうあるべき」だという、その人なりの譲れない価値観や願望を持っています。でも世代や性別が異なれば、生きていた時代背景や社会での立場も異なるので、それによって育まれた価値観もおのずと大きく違ってきます。たとえ同年代でも、生い立ちや触れ合ってきた人々の違いによって、「こうあるべき」という理想が大きく食い違うことは珍しくありませんよね。
 ですから、まずは自分の「べき」、相手の「べき」を知ることが怒りをコントロールするうえでの重要なポイントとなります。自分は何をされると「許せない」と感じるのか、同じように相手が「許せない」と感じる言動の境界線はどこにあるのかを互いに理解し合うことが大切です。

BP:自分はどのような価値観に基づいて生きているのかを認識し、周りの人々の価値観も理解するということですね。

戸田氏:
なるべく明確に分析するのが望ましいのですが、トレーニングをしていて感じるのは、抽象的な「べき」で怒る人が多いということです。
 職場の例で言うと、上司が部下を叱るときに「ちゃんと報告しろよ」とか「しっかり段取りしろ」「社会人らしい行動をしろ」「相手の立場に立って考えろ」といった抽象的な表現で叱る方がよくいらっしゃいます。自分でも「べき」の境界線を明確にとらえられていないのですね。
 叱る前に、どこまでなら自分にとってOKで、どこからがNGなのかを自分自身でも明確にすること。それによって、自分の「べき」の境界線が明確になるのです。
 たとえば、会議に集まる時間を「ちゃんと守れよ」と言われても、部下はその「ちゃんと」がジャストタイムなのか、5分前なのか、10分前なのかと迷ってしまいます。
 境界線を明確にすれば、相手にもわかりやすくなるわけですよ。上司は「10分前集合が当たり前」だと思っているのに、部下が「ぎりぎりでいいんじゃない」と思っていたとすれば、そこですれ違いが生じてしまうわけです。
 一方で、相手の「べき」も当然あるはずです。それぞれの「べき」がぶつかったときに争ってはいけません。コミュニケーションのゴールは、「どちらが正義なのか?」についてケリをつけることではありません。自分が「こう思っている」「こうしてほしい」ということをお互いに伝え、お互いに耳を傾けること。お互いの「べき」の違いの溝を話し合いによって埋めていくことがゴールなのです。
 「こうあるべきだ」というときには、「わたしが正しくて、あなたが間違っている」と自分の正義を相手に押し付けてしまいがちですが、そうやって押し付けられたときに、相手も「そうだよね」と素直に受け止めてくれるかどうか、それこそ、「相手の立場に立って考えてみること」が必要かもしれませんね。

BP:そうした怒り方を身に付けるには、具体的にどうすればよいのでしょうか?

戸田氏:
まずは、どんな「べき」が自分の怒りの原因になっているのかを客観的に理解すること。そして「べき」の境界線をどの程度踏み越えてきたら、自分はどのくらい怒りを覚えるのかを客観的に把握してみることだと思います。
 それを知るためには、日ごろから自分の「怒りの記録」を残しておくことも有効ですね。一つ一つの出来事に対して、怒った理由や、どのくらいの怒りを感じたのかという記録を付けていくと、傾向が見えてくるはずです。

「怒り」の裏側には不安や困惑が潜んでいる
BP:「怒り」は自然な感情だということですが、ついカッとなって後悔してしまうことも珍しくありません。どうすれば「後悔しない怒り方」ができるのでしょうか?

戸田氏:
人間の怒りのピークは長くても6秒程度です。まずは、その間に衝動的な言動をしないようにすることが大切ですね。
 アンガーマネジメントでは、この6秒間を乗り越えるためのトレーニングも指導しています。また、より長期的な視点で、体質を改善したかのように、怒りにくくなる取り組みについてもアドバイスしています。
 先ほども述べたように、日本人は「怒るとみっともない」とか「大人げない」といったように、「怒り」に対して悪いイメージを持っている人が多いようですが、アンガーマネジメントでは、「怒り」を悪とは考えません。怒るのはごく自然な人間の感情ですし、必要であれば怒って構わないのです。
 「怒ってはいけない」と思って感情を溜め込んでしまうと、どんどん怒りが心の中に蓄積され、それがあるとき一気に噴き出し、強くののしったり、思ってもいないような言葉を吐いたりして相手を傷つけてしまうこともあります。
 怒りを感じ、怒る必要がある、または怒らないことで後悔すると判断したら怒ってもいいのです。
 ただし、ここで大切なのは「後悔しないような怒り方」をすることです。いちばんやってはいけないのは、怒りに任せて衝動的な行動を取ってしまうこと。後悔するだけでなく、人間関係に亀裂が入ってしまったり、相手との信頼関係を失ってしまったりすることもあるでしょう。
 そうならないためにも、あらかじめ自分の「べき」の境界線を把握し、「どうしてほしいのか、ほしかったのか」を相手にわかってもらえるように伝えることが大切です。

BP:著書には、「怒り」という感情が何に起因するのかということについてもわかりやすく書かれています。これを知っておくことも「怒り」と上手に付き合ううえで大切なポイントだと言えそうですね。

戸田氏:
「怒り」という感情の仕組みを理解することも重要です。
 本にも書きましたが、怒りは二次感情と言われています。怒りというのは、「寂しい」「つらい」「不安」「困った」といった一次感情が大きくなり、満たされなくなることによって起こる二次感情なのです。
 この仕組みを理解すると、とても理不尽に思えるような相手の怒りでも、その裏側には「不安や寂しさや困惑が潜んでいるんだな」ということが共感できるようになります。それによって、相手の怒りにあまり過剰反応しなくなるわけです。

BP:最後に本誌の読者にメッセージをお願いします。

戸田氏:
繰り返しになりますが、怒りは誰もが持っている自然な感情ですし、決して悪い感情ではありません。しかも、訓練次第で誰にでもうまく扱えるようになるものです。
 また、怒りは行動を起こすモチベーションにもなるので、アンガーマネジメントを習得すれば、怒りのエネルギーを建設的な方向に向けて、自分を高めていくことも可能です。怒りによって後悔するのか、それをうまく生かして自分のパワーにするのか。それはいかようにでもできるんですよ。
 著書では、怒りを感じたときに「後悔しない感情の伝え方」について、これまでのトレーニングで実際に見聞した事例に基づいて詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしていただきたいですね。

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アドット・コミュニケーション株式会社
代表取締役社長
戸田 久実氏
Kumi Toda

◎ P r o f i l e
立教大学文学部卒業後、株式会社服部セイコー(現 セイコーホールディングス株式会社)にて営業、その後音楽業界企業にて社長秘書を経て、現在は研修講師として民間企業、官公庁の研修・講演の講師の仕事を歴任。対象は新入社員から管理職まで幅広く、相互信頼をベースにした「伝わるコミュニケーション」をテーマに「アンガーマネジメント」「アサーティブコミュニケーション」「クレーム対応」「プレゼンテーション」「インストラクター養成」など多岐にわたる研修や講演を実施。講師歴は25年。登壇数は3,000を超え、指導人数は10万人に及ぶ。2008年10月アドット・コミュニケーション株式会社設立。






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