テレワークの実施、最新機器の導入による業務効率の向上、そして保存が必要な文書の電子化など、2017年の法改正に向けて、日本のオフィスでの働き方が大きく変わろうとしている。そこで本特集では、働き方改革についての理解を深めるために、有識者に話を伺った。働き方の改革に対応して、パートナー様がどのような提案ができるのかを考えたい。 |
安倍改造内閣の目玉政策として始まった働き方改革は、日本企業の雇用のあり方を大きく変えようとしている。そのほか、法令で保存が義務付けられる書類の電子保存を可能とするe-文書法の適用要件の段階的な緩和など、企業を取り巻く法的環境は大きく変わろうとしている。まずは2017年2月末現在、その具体像が見え始めた働き方改革を軸に、企業の法的環境の変化を見ていきたい。
第3次安倍内閣が、日本が抱える少子高齢化による労働人口の減少という課題を乗り越える施策として「ニッポン一億総活躍プラン」を掲げたのは昨年6月のこと。その柱に位置付けられるのが「働き方改革」で、昨年9月の安倍首相を議長とする「第1回働き方改革実現会議」の開催を皮切りに、今年度中の実行計画立案に向けた取り組みが急ピッチで進んでいる。
昨年、大手広告代理店の新人社員が長時間労働などを原因に自殺したことが労災認定となったことで、働き方改革は労働力の是正という課題とセットで注目を集めている。だが、その部分だけに目を向けていると働き方改革の本来の狙いが見えにくくなると指摘するのが、全国社会保険労務士会連合会副会長の若林 正清氏だ。
「本来の狙いは少子高齢化によって労働人口が減少する中、どうやって企業が働き手を確保していくかという点にあります。実際、定時退社を前提にした働き方は女性や高齢者など、従来の残業ありきの働き方では難しかった働き手の確保につながることは間違いありません」
労働基準法の見直しもこうした観点に基づくもので、今年2月には、政府が導入を目指す、罰則付き時間外労働上限設定の原案が示されている。おそらく多くのエンドユーザー様が注目する点と思われるだけに、まずその概要を紹介しておこう。
労働基準法32条では、原則として1日8時間、週40時間が法定労働時間の上限として定められている。そして、労使間でいわゆる「36協定」を結ぶ場合の労働時間の延長の限度としては、厚生労働省告示によって、月45時間、年間360時間となっているが、特別条項付き協定を結べば年間最大6カ月、特例として告示の限度を超えて労働させることが可能となる。その結果、1カ月の時間外労働時間は青天井になっているのが現在の状況だ。これを受け、原案では年間720時間を上限としている。数字については今後さらに議論が進むと見られるが、初めて罰則付きの上限が示されたことは注目すべきポイントだ。
さらに年次有給休暇の「付与の義務化」から「取得の義務化」への変更、「勤務
間インターバル規制」の導入なども検討されている。後者は耳慣れないかもしれないが、前日の終業時刻と当日の始業時刻の間に、労働者に一定の連続する休息時間を与えることを企業に義務付けることがその内容。ちなみに先行して法律を施行しているEU諸国の場合、勤務間インターバルは11時間で、日本でもこの数字をベースに今後議論が進められると見られている。
働き方改革におけるもう一つの大きなポイントは、「同一労働同一賃金の実現」である。正規・非正規社員間の格差是正がその狙いで、すでに昨年12月に非正規労働者の処遇改善を図るガイドライン案が示されている。
「基本的な考え方は、経験や能力による賃金差は当然のこととして認める一方で、雇用形態の違いによる不合理な賃金差は認めないという点にあります。具体的には、同じ仕事を行う正社員と非正規労働者の時間外手当割増率の格差は今後認められなくなると見られています。そのほか、通勤手当や出張手当、食堂や福利厚生施設の利用についても、原則として正社員と非正規労働者の差を認めないという方向性が打ち出されています」
ガイドライン案では派遣労働者についても言及し、派遣先の労働者と職務内容が同じであるなら、派遣元の事業者は賃金や福利厚生を派遣先と同じ条件にすべきとしている。
さまざまな課題が議論される働き方改革において、新たな働き方の一つとして掲げられているのがテレワークだ。ITとの関連でも大きな注目を集める部分だが、なかなか普及が進んでいないのが実情である。
「日本の労働文化に、同じ場所で同じ空気を吸って働くことを大切にする一面があることもあり、中小企業の経営者の中には、テレワーク自体に抵抗を持たれる方も少なくないようです。しかし働き手の確保は、今後日本の企業が避けて通れない課題になります。既に触れたとおり、その解決策の一つが自宅を含む働く場所の多様性を認めるテレワークです。勤務時間や業務内容を含め、どれだけ多様な働き方を提示できるかが企業にとって大きな課題になるはずです」
例えば、若林氏が顧問を務めるある会社では、ここ数年、親の介護を理由にベテラン従業員の離職が続いていたという。その会社には育児・介護休業法に基づく、介護のための勤務時間の短縮措置は整備されていたが、育児とは違い、介護はいつ終るのかがわからない。会社に迷惑を掛けたくないという意識もあり、短縮措置制度はほとんど機能していなかったという。それを受け、臨時的な措置ではない短時間正社員制度を導入したところ、介護離職の削減に大きな成果を挙げたという。
「テレワークを含めた、多様な働き方の実現を支えるのがITの力であることは間違いありません。そのセールスを手掛ける皆様には、働き方改革の本来の狙いをエンドユーザー様に積極的に発信していただきたいと考えています。そして具体的な法解釈や労務管理について疑問が生じた際、サポートできるのは我々社労士です。私たちが目指す、企業の発展と労働者の福祉の向上に、ぜひとも皆様と共に取り組んでいきたいと思います」
続き、「働き方を変えるにはパートナー様の力が必要になる! 2017年、日本のビジネスを変える“働き方改革”とは?」は 本誌を御覧ください
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