1960年代後半から、テレビを前にした米国のお茶の間で、ポピュラーなコメディ番組といえば" G E T SMART" ( 『ゲット・スマート』、日本での番組名『それ行け!スマート』、元々は英語で「頭を使え」という意味)であったが、最近では「スマートフォンを購入したか」という会話の一部として使われることがある。スマートフォンは、当初は文字通り「頭のいい電話」、つまり万能携帯電話のことであったのだが、今や北米ではノート型のPDA(パーソナル・デジタル・アシスタント:通信械能付き電子手帳)も含む端末を意味する用語となった。
スマートフォン市場の範囲では、三つの流れを汲む端末類がシェア争いを繰り広げている。「鮮度」や「パッケージング」が大切であるこの市場を、筆者が敢えて「果物戦争」と称するのは、以下の解説を読めば、納得していただけるであろう。
一つは、携帯音楽端末のiPODからの延長と呼んでもおかしくない『iPhone』である。類似のものもまだ(とりあえずソニーが動くまでだろうが)出ていない。Macで知られるアップル社の製品だが、米国において最近、iはインターネットのiであることから、『iPhone』もこの延長である、と考える若者の間で普及している。タッチパネルを採用している点が特に目立ち、20〜30代に浸透している。この数年、忙しい学生が朝、りんごを片手に家を飛出していく光景にはお目にかからないが、『iPhone』端末を片手にしたヤング・プロフェッショナルなら大勢見受けられる。
二つ目はPDAの流れである。この中で、都会派ビジネスマンの間でポピュラーになっているのが、『BlackBerry』(きいちごの一種)である。この端末は、カナダのResearch In Motionという会社が提供している。日本ヒューレット・パッカードやシャープが出している端末を抑え、PDA系の代名詞になっているといっても過言ではない。ただ、通信機能を使うと英米にあるサーバを経由するので、情報漏洩の恐れがあるとして、フランスでは国家機関に所属する者は、使用禁止となっている。デザインも良いせいか、ビジネスマンの妻もデザートメニューを見たりして、愛用しているとのことである。日本では、NTTドコモが『B l a c k B e r r y 』向け日本語化ソフトを搭載して2006年秋から販売している。
残りの流れは、携帯電話の「正統派」であり、今日では(なぜかまだ、バナナの形のものには出くわしていないものの)日本を除くアジアの電話メーカーからの製品が多く目立つ「次世代携帯」だ。多種多様な携帯電話が出回っていることから、缶の表示を読まないでフルーツ・カクテルの中身を特定しようとするのと同じで、際限がないため、今回は省略する。
ちなみに、これまでに登場したすべての電子機器やコンピュータと同様に、これら次世代携帯端末も取扱説明書がないと(取扱説明書があっても一部のコンピュータ・リテラシーのないユーザーには同じことだが)、操作や取り扱いには相当苦労することを付け加えておこう。
さて、それではスマートフォンの今後はどうなるか? 私の予想では、WiFiやWiMAXなどの通信技術を導入(残念ながら、日本のPHS基準は、マーケッティングが下手なせいか、北米市場にはまだ入り込めていないようだ)して、発展途上国----南米以外では、イスラエルも含む----の企業が端末普及を狙うだろうと思われる。しかしその結果、米国で言うところの「レモン」、つまり不良品、の数も増えてしまうであろう。
はじめにお話しした、古き良き時代の米国のテレビ・コメディ番組で見られた最も有名なシーンは、主役の諜報部員が電話ボックスの中で靴を脱ぎ、靴底に隠された無線機で話しているというものである。今ではそんなものを使いたいと思う人はいないだろうが、このドラマでは呆然とするような機器がたくさん登場していたのだ。将来、携帯ユーザーがレモン業者の餌食になることを危惧する次第である。