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 新自由経済主義的な考え方の上に立ち、日本の構造改革を進めるための論戦をリードしてきた木村剛氏。現在も日本の経済を注視し、その問題点を鋭い論調で指摘するかたわら、さまざまな活動に多忙な日々を送っている。今回は現状の中で主に中小企業が進めるべきIT化と、そのためのサービスについての意見を伺った。  最近の日本経済の問題点を、どうお考えですか。 最近の日本は国が経済を統制し、まるで社会主義的な統制国家を選択しているように見えます。 たとえば「ネットカフェ難民」のように大騒ぎされているものの、実態としては大勢に影響のない社会問題に対処するため、国によるさまざまな規制を検討しているようです。最低賃金を引き上げる施策や、労働者派遣法で派遣先の業種などが限定されているのも、その一例だといえるでしょうが、ソリューションになっていません。 それらの動きの中でも中小企業にとって特に影響が大きいのが、貸金業法の改正ではないでしょうか（注1）。これまでは許容される利率の上限が、利息制限法と出資法というふたつの法律で異なり、その差の部分がグレーゾーン金利となっていました。しかし消費者金融の債務者などを救済するため、上限を29.2％から20％にしてグレーゾーンを撤廃することになったわけです。 ところがこの改正は、消費者金融の債務者だけでなく、中小企業に大きな影響を及ぼします。大手の金融機関は、なかなか中小企業に融資をしてくれようとしません。それどころか逆に、これまでの融資を引き上げようとする例が今もあります。したがって中小企業は、グレーゾーン金利でも経営資金を借りざるをえなかったわけです。 当面の間は経過措置としてグレーゾーンを残すことになりましたが、すでに融資の審査は厳しくなっています（注2）。グレーゾーンの撤廃というのは、債務者の救済を唱えながら、実際には中小企業経営者の方を困らせる「きれいごと」だと言わざるをえないでしょう。きれいごとを言っているだけでは、経済は決して上向きません。むしろ国による経済統制を強めていくと、かえって悪化する方に向かうと思います。  そんな中で中小企業が生き残っていくために、経営のIT化はますます必要になっているのではないですか。 すでに大手の企業は、かなりIT化が進んでいます。それと対抗していくためにも、中小企業のIT化は避けられません。ところが中小企業には、そのために必要な知識も考える時間も資力も足りない。そのせいで、中小企業のIT化は遅れてしまっているのが現状です。したがってITのシステムを販売する方からすれば、ここに大きなニーズというかシーズが存在しているわけです。 ただし、そのニーズやシーズを実際のビジネスにつなげて長期的な利益を上げるためには、利用者の側の立場に立ったサービスが欠かせません。 かつてはとにかく相手を説得してシステムを導入してもらって、代金を回収することだけしか考えていなかった例も多いのではないでしょうか。これでは、設置した企業はせっかく入れた良いシステムも使いこなせずに、二度と相手にしてもらえなくなる結果になってしまいます。 ですから中小企業を対象としたビジネスでは、決して単に売りぬけることだけを考えてはいけません。まずはシンプルで使いやすくて、すぐに効果の出るシステムを提供することが大切です。しかも「このシステムは、どういうことに役立つのか」をきちんと相手に説明して理解してもらい、実際に成果があがるところまでお世話をするべきでしょう。もちろん、使いはじめてからのサポートやメンテナンスも欠かせません。 しかも最近は、リース会社も中小企業からは手を引こうとする傾向にあります。したがって、IT販売者がファイナンスの提案まで含めてお世話することを考えるべきだと思います。システムを買ってもらうだけではなく、ASPの形で提供したり、複数の顧客にタイム・シェアリングで使ってもらうなどの方法も考えられます。とにかく、お客様が利用しやすい形のサービスを提供するべきでしょう。そこまでできるようになれば、とても大きなマーケットが拓けるはずです。 個人情報の保護や企業の内部統制が求められている最近の傾向も、中小企業のIT化を促進することになるでしょうか。 その点に、私は少し疑問を抱いています。現状では経営のための内部統制ではなく、「内部統制のための内部統制」になってしまっているのではないでしょうか。中小企業が何千もの項目をチェックしていたら、本業がおろそかになってしまいかねません。今後はそのあたりが改善されて、もう少し実態に即したものが出てくると考えています。 むしろ中小企業の場合は、内部統制などの体制を整備するよりも前に、どんぶり勘定の経営を改めることの方が先決でしょう。中小企業の経営者の中には財務諸表の見方がわからなくて、現実のキャッシュフローだけしか見ていない人もいたりします。これでは「手元に現金はあるが、実際には損している」ということも気付けなくなってしまいます。ですから、そういう事態を防ぐためにも、ITのシステムを活用して経営の実態を把握できるようにすることが大切だと思うのです。 チェーン店であれば個々の店の規模は小さくても、全店で共通のマニュアルを作成するのが普通です。しかし店舗がひとつで従業員が数人だけの企業では、内部統制の前にまずきちんと実態を把握した経営ができるようにしてあげることが先決なのです。 中小や零細企業のニーズに応えるシステムが必要なのですね。 中小企業の実情に即したサービスを提供できれば、そこに大きなチャンスが生じてくるはずだと思います。 上場企業のROE（注3）は大半が10％未満ですが、中小企業の中には3 0 〜 4 0 ％ の例もあります。29.2％の利率で融資をすると問題視されますが、例えば業務用のITシステムを買ってもらうのではなく利用してもらう形にして、29.2％の使用手数料を受け取るかたちなら問題ない。ROEが30〜40％くらいある企業なら、29.2％くらいの使用手数料は十分に支払える。年間手数料という形にすると金額が大きくなってしまいますが、毎月の手数料という形で少しずつ支払ってもらえばそれほど負担には感じられないはずです。複写機などは販売するのではなく、リース契約して保守メンテナンスを重視していますからね。 システムにしても、最初は相手が本当に必要としている機能だけ提供し、効果を実感してもらった上で、さらに別の機能も追加で入れてもらえるよう提案していくことも考えられるでしょう。 お客様である中小企業の側の立場に配慮して、こうした形態でのサービスを提案すれば、大きなビシネスにつながっていくのではないでしょうか。  そう考えると、これから中小企業のIT化が進むと期待できそうに思えるのですが。 これまでお話ししてきたように、貸金業法にせよ個人情報の保護や企業の内部統制にせよ、現在の国の施策には不十分な点が存在します。その結果、経営の現場にはさまざまな歪みが生じるのです。 しかし歪みがあるということは、それに対処するための方法やサービスを立案して提供すれば、大きなビジネスチャンスになるということでもあるのです。 未開の地へ行って、現地の人たちが裸足で歩いているのを見て「これでは、ここでは需要がないから靴は売れない」と考えるか、それとも「この人たちが靴を履くようにすることができたら、すごく大きなビジネスになるぞ」と考えるかの違いですよね。 世の中が変化しつつある時には、他人と違ってしまうことを恐れてはいけません。そこにこそ、ビシネスのチャンスがあるのです。しかも、今の時代にはスピードが大切です。その意味では大企業より、むしろ小回りのききやすい中小企業に有利だといえるのではないでしょうか。 たとえばITのシステムにしても、大企業が使っているシステムを、一度に全社で入れかえるのは大変です。しかし中小企業であれば、経営者の決断ひとつで入れ替えが可能なのです。ITシステムは、日進月歩で新しい機能を備えたものが登場しています。それを常に最新のものに切り替えていくには、即断ができる中小企業の方が有利でしょう。状況の変化に合わせて、どんなITが必要かを経営者が決めるには、現在の自社の経営状態を把握してもらう必要があると思います。そのためにも、経営者がきちんとした経営の数字を見られるように、ITによる財務管理のシステムを整備しておくべきだと言えるのではないでしょうか。 （注1）貸金業法上の「みなし弁済」制度（グレーゾーン金利）を廃止し、出資法の上限金利を20％に引き下げる貸金業法改正が公布（平成18年12月20日）された。 （注2）経過措置をおき、公布から概ね3年を目処に金利が引き下げられる。 （注3）Return On Equity = 自己資本利益率。収益性分析の一指標で、自己資本に対しどれだけのリターンを生み出したか示す指標。ROE（％）＝当期純利益÷自己資本× 100で算出される。 |
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