今回のコラムは、ここ2、3年で実用化されるものではないが、夢のある次世代技術を取り上げたい。2019年10月31日、N T Tがインテル、ソニーと共同で業界団体「IOWN Global Forum」の設立を発表した。I OWN(アイオン)とは、Innovative Optical and Wireless Networkの略で、NTTが2030年頃の実用化を目指して推進しているオールフォトニクス・ネットワークに基づく次世代ネットワーク基盤の構想である。オールフォトニクス・ネットワークとは、その名の通り、ネットワークから端末までエンドツーエンドで全てを光化したネットワークである。光ファイバーでは、同時に波長が異なる光を伝送することができるが、IOWNでは、機能ごとに別の波長を割り当て、端末やサーバー内は光のまま演算をおこなう光プロセッサを使うという構想だ。IOWNのキモは、全て光で処理をおこなうということである。現在でも、インターネットの基幹ネットワークとしては光ファイバーによる光通信が利用されており、フレッツ光のように、自宅やオフィスまで光ファイバーを引くFTTHサービスも普及している。しかし、現在のインターネットでは、端末の直前までは光通信でも、端末側では直接光通信をおこなえないので、電気信号に変換する必要があり、端末で演算や処理をおこなった結果は、再び電気信号から光信号に変換する必要がある。IOWNでは、光信号のまま処理をおこなうことにより、光信号と電気信号の変換処理が不要になるため、消費電力やレイテンシを大きく削減できる。
NTTは、このオールフォトニクス・ネットワークでは、従来のネットワークに比べて、電力効率100倍、伝送容量125倍、エンドツーエンドでの遅延を1/200にするという目標を掲げている。現在のIT社会は、電子技術であるエレクトロニクスを基盤としているが、I OWNでは、光技術であるフォトニクスの世界へとシフトすることになる。もちろん、その実現は容易なことではない。インテルも以前から、シリコンフォトニクス(シリコンを用いたフォトニクス技術)に関する研究開発をおこなっており、2016年6月には、100Gbpsの通信に対応したシリコンフォトニクス光トランシーバーの出荷を開始している。しかし、光で演算をおこなう光プロセッサに関しては、まだ研究レベルにとどまっており、量産はされていない。まずは、完全に光だけで演算をおこなう光プロセッサではなく、メニーコアC M O Sチップ内のコア間を光で結び、チップ内で光信号処理をおこなう光電融合型チップが開発されることになるだろう。
IOWN Global Forumの設立の狙いは、I O W Nの実現に向けた研究開発の加速と、IOWNが実現する世界観の普及の促進である。オープンなフォーラムであり、海外、国内を問わず、多くの企業にメンバーになってもらいたいと、NTTの担当者はコメントしている。また、N T Tの隅田社長は11月13日におこなわれた講演で、65社がIOWN Global Forumへの参加を検討していることを明らかにした。その中には、マイクロソフトやベライゾン、オレンジ、中華電信など、大手IT企業や各国を代表する通信事業者が名を連ねており、IOWNへの期待が大きいことがうかがわれる。
IOWNの実用化には、まだいくつも超えなくてはならない技術的ハードルがあるため、あと10年での実用化はかなり難しいと筆者は考えているが、限界が見えつつある現在のインターネットの閉塞感を打破するための有望な構想といえるだろう。
text by 石井英男 1970年生まれ。ハードウェアや携帯電話など のモバイル系の記事を得意とし、IT系雑誌や Webのコラムなどで活躍するフリーライター。