文教市場は、多くのパートナー様にとって、参入の難しい案件だったのではないだろうか。1人1台端末の実現が掲げられてはいても、国・公・私立といった学校の違いや地域によって、調達方法や実施状況に差があるからである。ところが、コロナ禍に見舞われたことによるGIGAスクール構想の推進で、パートナー様にはチャンスが生まれている。では、なぜ今、GIGAスクール構想が注目され、どこにパートナー様の商機があるのかを考察したい。 |
政府のGIGAスクール構想がにわかに注目されている。コロナ禍に伴う、構想の目玉とも言える1人1台端末の前倒し配備がその理由だ。全国の小・中学校に1人1台の端末を配備するには、単純に見積もると1,000万台の端末が必要になる。まずは注目の1人1台端末からGIGAスクール構想について学んでいこう。
GIGAスクール構想のGIGAは、Global and Innovation Gatewayfor All。「すべての児童生徒に世界と改革への入り口を提供する」というその言葉が示すとおり、1人1台端末の実現は構想のまさに目玉と言える。だが、教育ICT化の取り組みにおいて、その方針が打ち出されたのはそれほど古い話ではない。まずはその経緯について簡単に振り返っておこう。
小・中学校の学習者用端末の全面入れ替えに向けた取り組みは、2018年からの「教育のICT化に向けた5か年計画」においてスタートしている。この時点では、2022年をめどに「3クラスに1クラス程度」の端末整備を図るという目標が掲げられていた。GIGAスクール構想という言葉と共に1人1台端末が初めて明確に打ち出されたのは、昨年12月のことだ。ただしこの時点における整備目標は2023年度中に定められていた。
この方針が全面的に見直されるきっかけになったのが、コロナ禍に伴う学校休校であった。2020年4月成立の令和2年度補正予算において総額2,292億円が計上され、1人1台端末の2020年度内実現が目指されることになった。5カ年計画に対応する新たな学習者用パッケージの準備は、昨年夏にはスタートしていたとはいえ、ベンダー関係者にとってもまさに予想以上の状況と言える。
次に1人1台端末が必要とされる理由についても簡単に触れておきたい。その背景には、脆弱なICT教育環境への危機感がある。教育用PCの配備状況は2019年3月時点で児童生徒5.4人に1台にすぎず、これでは通常授業でICTのスムーズな利用は難しいのが実情だ。1.9人/1台(佐賀県)から7.5人/1台(愛知県)という地域差も課題だった。また海外との比較では、日本の子どもたちの学外でのIT機器利用がSNSやゲームなど学習外の目的に大きく偏っていることも懸念される点の一つだ。クラウドを前提に家庭学習でも端末を活用する1人1台端末の実現は、コロナ禍を抜きにしても、必然であったことは間違いない。
既に一部の自治体では入札を終えるなど、1人1台端末整備に向けては全国において現在進行形で取り組まわれているが課題も多い。年度内に調達をどう終えられるかという問題はその代表だ。
現状では、一部で整備が進んでいたとはいえ、1人1台端末の実現には、今後900万台の端末が必要になると言われる。年間700万台強で推移する国内タブレット市場をはるかに超える需要を満たすのは至難の業だ。
「1人1台端末が想定する低価格CPUは新興国からの大量ニーズもあり、どれだけ調達できるかまったく見えない」という国内ベンダーの声もあり、今年度内に納品完了は難しいと見る関係者も多い。ITビジネスの観点では、1人1台端末の調達は苦しい課題になりそうだ。
1人1台端末の導入では、国・公立の小・中学校は定額(4.5万円)、私立の場合は1/2(上限4.5万円)が国から補助される。この金額は英米の教育用300ドルPCを念頭に、5万円程度で購入することを想定して定められた。
学校配備PCはこれまで、オンプレミス(自社内運用)環境でソフトを運用することを前提に整備が行われてきた。それに対し1人1台端末はブラウザ版の利用を前提に、Windows OSを例にすると、CPUはIntel Celeron同等以上、メモリ4GB以上、ストレージ64GB以上など機能を最低限に絞り込んでいることが特徴だ。
では、具体的な1人1台端末とはどのようなものなのだろうか。文科省では、Windows OS、Google Chrome、iPad OSそれぞれについてモデル例を明示している。そのポイントを整理すると以下のようになる。
●端末+学習用ツールが基本
まず注目したいのは、学習用ツールについてはブラウザ版の利用が前提とされている点だ。それに伴い、「Windows OS端末×教育機関向けOffice 365ライセンス(無償)」、「Chrome OS端末×G Suite forEducation(無償)」、「iPad OS端末×Apple社が提供する無償の教育用App」という形で、各OSに対応した学習用ツールが明示されている。Windows OSを例にとると、Word、Excel、PowerPointなどのオフィス機能のほか、Teamsを課題の配付・回収や協働編集、遠隔授業などに利用することが想定されている。
●タッチパネル・キーボードを実装
デジタル教科書・教材の操作性向上を念頭に、タッチパネル、ハードウェアキーボード、QRコード読み取りに対応したインカメラ・アウトカメラ搭載が必須とされた。キーボードは混線などを避ける観点から「Bluetooth接続でない」ことが条件になり、有線接続タイプか一体型端末であることが求められる。
●LTEにも対応
LTE(モバイルデバイス用通信回線)対応も重要なポイントだ。令和2年度補正予算では、自宅にWi-Fi環境を持たない児童生徒を対象に、1人1台端末に加え、ルーターやSIM、USBドングルによりLTE接続環境を提供するための予算も計上された。なお、LTE対応については自治体の判断で省くことも可能だ。
●MDM(モバイルデバイス管理)機能は必須
OSを問わず、「ユーザー制御」「アプリ・拡張機能の制御」「ネットワークへのアクセス制御」「紛失・盗難時の制御」といった基本的なMDM機能を備えることが前提条件になる。
●保守は原則1年で延長も可能
保守は原則1年のセンドバック方式になる。保守期間については、各自治体の判断で延長することも可能だ。なお機能や単価がほぼ横並びにならざるをえない1人1台端末の入札では、保守体制が重要なポイントになることも少なくないようだ。
1人1台端末は、自治体や学校法人がそれぞれ行い、都道府県が取りまとめて補助金申請を行うことが基本スキームになる。文科省では業務の簡素化などの観点から端末の都道府県レベルの共同調達を推奨し、既に複数の府県が共同調達する意向を示しているが、東京都のように市区町村レベルで調達を進める自治体も多い。
ベンダー各社は文科省が掲げるモデル例に対応したパッケージを準備し、自治体や学校の担当者に向けたプレゼンテーション(ピッチ)を3月から開始している。概要は文科省の「G I G Aスクール自治体ピッチ紹介ページ」で確認できるが、4.5万円に収まる「基本パッケージ」と追加機能をプラスした「応用パッケージ」を用意している点が大きな特徴だ。後者には、ケースやタッチペンなどのハード、到達度に対応したAIドリルをはじめとした教育用有償ソフト、LTE通信プランなどの通信サービスが組み込まれる。仕様書の作成は、各社のパッケージを見比べたうえで、基本パッケージに追加する機能などを検討していくという流れが一般的であるようだ。
1人1台端末の入札は既にスタートし、一部は開札を終えている。7月時点のOS選定状況は、おおよそWindowsOSとChrome OSが各4割、iPad OSが2割。Chrome OSの善戦を驚きと共に受け止める向きも多い。
その理由として、当初からクラウドを前提に開発されたChrome OSの軽快さを指摘する声も多い。確かに一コマ45〜50分の授業での運用を考えると、Chrome OSの強みの一つである起動の速さが高く評価されたことは間違いない。だが文教分野で以前から高い評価を受けてきたiPad OSを押さえ、Windows OSと並ぶシェアを獲得した背景には、キッティングの容易さという特長があると指摘する声も多い。
1人1台端末の年度内配備に向け、膨大な数の端末のキッティングに要する時間を懸念する声も多かった。こうした中、専門スキルを必要とせず、自治体職員でも簡単にキッティングが行えるChrome OSの特長が高く評価されたことは間違いない。
こうした状況を受け、日本マイクロソフトは7月にキッティング工数を大幅に簡素化する新サービスを新たにラウンチし、巻き返しを図っている。GIGA WIN Packageと名付けられた同サービスのポイントは、Microsoft Intuneの機能を用い、端末のキッティングを同社提供クラウド上から無償で行える点にある。キッティングを請け負う事業者は、初期設定ファイルを書き込んだUSBメモリを端末に挿入し、電源をONにするだけで各種設定を自動で行える。それにより管理ラベル貼付などの作業も含め1台10分程度で終えることが可能と言う。これらの商品は、日本マイクロソフトとの別途契約が必要だが、くらうどーるで調達することができる。
1人1台端末の今年度内配付完了、来年度運用開始をどうスムーズに支えられるかが重要になることは間違いない。BP事業部は、Windows OS、Chrome OS、iPad OSの3OSを広く取り扱うと共に、各自治体・学校が選定する基本・応用パッケージを確実に調達することでパートナー様のビジネスを支えていく考えだ。
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