今年で13回目を迎えた「企業IT動向調査」が、社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)から発表された。同調査は、企業のIT部門、社内IT利用部門を対象に、A4で24ページという詳細な内容のアンケート調査を実施。さらに、一部企業には直接インタビュー調査を行い、企業のIT投資の状況や、IT利用動向を分析しているものだ。今年の調査では、IT部門で802社、利用部門で805社からの有効回答を得ており、企業のIT投資の実態を理解する指標的な役割を果たしている。この中からいくつかの興味深い傾向が浮き彫りになっているので取り上げてみたい。
まず注目すべきは、企業のITに対する投資意欲が極めて高いという点だ。2006年度にIT予算を増加させた企業が全体の52%に達したほか、増加割合から減少割合を引いたD
I 値( D i f f u s i o n Index)は、昨年の17から9ポイント増加の26に達している。さらに、2007年度のIT投資予算の予想についても、DI値は21となっており、引き続き堅調なIT投資が見込まれている。
この数値は、同協会でも予想外の結果だったようだ。とくに、過去の傾向では、増収増益の企業においてIT投資が活発だったのだが、今回の調査では増収減益や減収増益といった企業にもIT投資意欲が目立っているのが特徴だ。「勝ち組に追いつこうという傾向が見られた」(同協会)と分析している。景気回復の本格化、企業業績の好調ぶり、競争力強化のためにIT投資を積極化する企業が見られることなどが要因だとしている。
また、新規のインフラ導入、アプリケーション開発費用といった新規投資費用が、前年比24%増と大幅な伸びを見せたほか、ダウンサイジングが急速に進展するなど、攻めのIT投資が進展しているのが特徴だ。
一方、今年度の調査では、重点テーマのひとつとして、「内部統制・リスクマネジメント」を取り上げている。この調査は、いわば、日本版SOX法への対応状況
をまとめたものだといえる。これによると、「すでに全社レベルの体制を構築済」という企業が16%、「現在全社レベルの体制を構築中」とした企業が38%というように、約半数の企業で推進体制の構築が始まった状況にある一方、「まだ全社レベルの検討体制を構築していない」という企業が45%に達している。
また、「現段階では必要工数、費用を算定していない」という企業が70%となったほか、「どこまで対応すればよいか分からない」といった企業も多く、「情報不足、具体的作業に落とす指針がないなど、霧の中にいるような企業が多いことが明らか」(同協会)という。会見の席上では、同協会関係者から、「日本版SOX法に関しては、これは、本当にやるべきことなのか、あるいは、ほかに方法があるのではないか、といったことを感じている企業が多いことを、この値から読みとることができる」といった厳しい見方も示された。
もうひとつ、今回の調査から興味深い結果が明らかになったのが、新たなテクノロジーサービスに関する導入および検討についての調査だ。ここでは、「Web2.0」や「ビジネス・インテリジェンス」、「OSSの活用」など9つのトレンドについて取り組み状況を調査している。これによると、Web2.0においては、導入済みが3%、検討中が12%、また、関心があるが未検討とした回答が45%に達し、関心は高いものの、導入している企業がわずかであることがわかった。ビジネス・インテリジェンスについては、導入済みが10%、検討中が11%、OSSの活用では、導入済みが13%、検討中が7%となった。「少なくとも8割程度の企業が、関心があると回答するのではない
と想定していたが、結果としては、多くても6割。応用しているのは5〜10%程度に留まっていることは意外な結果」と、同協会ではまとめている。
今回の調査から、企業のIT投資意欲が活発になりつつあるのは明らかになった。だが、新たな技術に対しては、慎重な姿勢であることも浮き彫りになったといえよう。それは、ダウンサイジングの進展が、今年の調査でようやく顕在化したことを見てもわかる。言い方を変えると、専門誌での話題性と、企業への実際の導入との間には、少なくとも3年以上のギャップがあることが明確になった調査結果ともいえそうだ。